最近めっきり節約志向が高まったこともり、手頃な値段で食べられる牛丼屋に足を運ぶ機会が多くなりました。
特に冬の時期になると吉野家の「牛すき鍋膳」が異様に食べたくなるんですよね。
もちろん普通の牛丼や定食、カレーも美味しいので吉野家にはよく足を運ぶんですが、よく見ると吉野家の看板に書かれた「吉」の字ってちょっと変ですよね?
そういえば横棒の長さが普通の「吉」と違うよね。
下の棒が長くなってるけど、これって「吉」とどう違うの?
当たり前のように看板を見てきたのですが、最近になってふとこんな疑問を抱くようになったわけです。
名字や地名などでは「吉」が使われていますが、下の長い「吉」を見かける機会はほぼないですよね。
でも違いについて質問されても、多分明確に答えられない人は多いはず(汗)
そもそもどうやって変換したらいいんでしょうか?
ということで今回は、下の長い「吉」のパソコンやスマホでの出し方、漢字の成り立ちについて詳しく見ていきましょう!
かの総理大臣の吉田茂も、昔は下の長い「吉」を使ってたんだ。何となく旧い字なイメージもするけれど…
下の長い「吉」の出し方!
下の長い「吉」の漢字を入力するして変換するにはどうすればよいのか?
それについてはパソコンとスマホで若干方法が変わってきますので、順番に解説していきます。
パソコンで出す方法!
パソコンで下の長い「吉」を出す方法は簡単です。
文字を入力する欄にそのまま平仮名で「よし」と入力し、変換キーを押せば変換候補に表示されています。
だけどその方法でも、該当の字が見つからない人もいるかもしれません。
そういう人の場合は、使っているパソコンやOSが古いバージョンかもしれませんね。
僕が今使っているパソコンはWindows10のパソコンですが、この字は環境依存文字(髙や㎤、㋿など)なので、古いパソコンや機種だと対応できていないことが多いです。
※環境依存文字については以下の記事でも詳しく紹介していますのでご覧ください!
外来語に多い「ヴ」という文字ですが、パソコンだと自動でカタカナに変換されます。「ヴ」だけは何故か平仮名の「ゔ」に自動で変換されません。環境依存文字になってしまいますが、そもそもどうしてこうなってしまうのか?変換するための打ち方も含めて詳しく見ていきます!
旧いパソコンだと普通に「よし」と入力しても駄目なので、この場合はコピペして辞書登録が必要になります。
パソコンの画面の右下にあるIMEパッドの中にある「単語登録」から可能になります。
少し面倒ですが、ここで下の長い「吉」という字をネットなどで検索して探し、コピペして貼り付け、読み方と一緒に登録しないといけません。
スマホで出す方法!
スマホで出す方法ですが、これについてはパソコンと同じように簡単にはいきません。
と言いますのも、現時点では多くのスマホで下の長い「吉」が変換候補に入っていないからです!
これは僕が持っているiPhone6で「よし」と打った時の変換候補の一覧ですが、どこにも下の長い「吉」がありません。
こうなるとスマホでもパソコンと同じように辞書登録を使って変換するしかありません。
このやり方ですが、基本はパソコンと同じで、やはりネットなどから下の長い「吉」を探して選択します。
次に選択部分をさらにタップすると、下の画像のように「ユーザ辞書」という項目が出てきますので、それをタップします。
すると今度は下の画像のように、変換できない文字と読みを入力する画面に移るので、ここで読みと一緒に登録します。
※因みに下の長い「吉」は正確には「つちよし」と読むので、敢えて「つちよし」としておきました。
これで登録した読みと同じ平仮名を入力すれば、変換候補に出てきます!
※因みに僕が持っているスマホがiPhone6とやや古い端末だったので、最新の機種かOSであれば普通に「よし」と入力しても出てくるかもしれません。
変換方法についての解説は以上になりますが、そもそもどうしてこんなに面倒なんでしょうか?
先ほども少し触れましたが、下の長い「吉」という漢字は環境依存文字です。
ここからは雑学的な内容となりますが、2つの漢字について詳しく見ていきましょう!
2つの「吉」の違い!
改めて下の長い「吉」という漢字は、普通の「吉」とどこが違うのでしょうか?
一言で違いをまとめるとしたら、こうなります。
- 下の長い「吉」は普通の「吉」の異体字
これだけです。
単なる異体字に過ぎないので、漢字辞典オンラインで検索しても、「吉」のページでは、下の長い「吉」は異体字と表記されているだけです。
下の長い「吉」単独でのページは存在しませんし、検索しても検索結果はエラーとなってしまいます。
もちろん手書きの場合はどんな字か通用しますので、“俗字”とも言えます。ただ俗字なので、正式文書や戸籍などで使用されることは決してありません。
「吉」という漢字を詳しく!
そもそも「吉」ってどんな漢字なんだっけ?
学校の国語の授業でも習いますが、改めて「吉」という字の基本的な特徴をおさらいしておきましょう。
- 種別:常用漢字
- 部首:くち・くちへん(口)
- 画数:6
- 音読み:キチ、キツ
- 訓読み:よ(い)
- 意味:
- 主な熟語:吉兆、大吉、中吉、小吉、末吉、吉日、吉祥寺
- 「吉」が入る主な漢字:拮、喜、詰など
上で紹介した漢字辞典オンラインから抜粋していますが、やはりどこにも下の長い「吉」は使われていませんね。
2つの漢字は部首と画数、読み、意味は全く同じですが、違いは常用漢字か異体字かというだけです。
ただ見た目上の違いをわかりやすく説明しますと、「吉」は上の字が「同士」の「士」、下の長い「吉」は上の字が「土」になっていることがわかります。
故に見た目上の違いだけだと、上の部分の字が「士」か「土」になっているだけ、という表現も出来ます。
このことから異体字の「吉」は「つちよし」、「吉」は「さむらいよし」と呼んだりします。(士は「さむらい」と読むので)
常用漢字の方では「吉」になっているので、漢字のテストで該当する部分を「「つちよし」と書くと、減点されます。
そういえば学校の先生が「お前はいつも横棒の長さ間違えてるな。」と言ってたっけ。大人になってようやくその意味がわかったよ。
一部例外として、「吉野家」や「吉兆」(大阪市に本拠がある日本料理の料亭)などの屋号として使われてはいますが、日常生活で下の長い「吉」を見かけることはまずありません。
ただこうなってくると、そもそもどっちが旧字なのか気になりますよね。
次からは漢字の成り立ちから詳しく見ていきましょう!
つちよしは「吉」の旧字ではない!
つちよしは「吉」の異体字と説明しましたが、“異体字”ってそもそもどういう意味でしょうか?
これについては「コトバンク」の「日本大百科全書」の解説文が参考になります。
漢字の字体のうち標準字体以外のもの。異体文字、別体字、変体字ともいう。広義の用法では、漢字とともに通常の字体と異なる仮名(変体仮名)をも異体字とよぶことがあるが、通常は漢字のみをさす。
引用元:コトバンク-異体字
このように書かれていました。
つまり下の長い「吉」は、普通の「吉」の標準字体以外の漢字となるわけですが、誤解してはいけないのは旧字ではないということです!
“旧字”とは以前使われていた字体、すなわちその漢字の元となった字を指して、異体字はその旧字から変化した漢字となります。
もちろん異体字がそのまま常用漢字として使われるケースもあります。
例えば名字の漢字として使われる「澤」は「沢」の旧字、「國」は「国」の旧字となるわけですが、いずれも新しく出てきた方が常用漢字という扱いです。
しかし「吉」については、旧字も「吉」となっています。
これについては、漢字の成り立ちを見てもらった方がいいでしょう。
「吉」の漢字が誕生したのが古代中国の殷王朝の時代で、甲骨文字がその由来となっています。
斧などの刃物を表す象形文字(士)と、口を表す象形文字が重なっていますよね。
口については「めでたい事を祈る言葉」を意味しますので、これらを合わせると
おめでたい事を祈る儀式で刃物を置く様子 ⇒ 優れている、おめでたい、縁起が良い
と意味が変化していって「吉」が生まれました。
今でもおみくじで大吉や中吉などの熟語として使われていますし、名字として使われるのも納得がいきます。
仮に「つちよし」にしてしまうと、刃物を表す象形文字の部分が「土」の象形文字になるので、漢字本来の意味がなくなってしまいます。
以上をまとめると、「吉」が旧字で「つちよし」が新字体ということになります。
「つちよし」がどのようにして誕生したのか、その起源はさだかではありません。
ただ日本では特に江戸時代から昭和初期頃、戦前でよく使われていたようです。
昔の日本では「つちよし」が主流だった?
冒頭でも紹介した牛丼チェーン店の「吉野家」、大阪を本拠地とする料亭の「吉兆」は屋号として使っていますが、いずれも戦前に創業された歴史ある企業です。
そして終戦直後に内閣総理大臣に就任したかの吉田茂については、官報(政府が毎日刊行する文書のこと)において、名字の「吉」を「つちよし」と表記していました。
このことから見ても年配の方、お年寄りなどには特に「「つちよし」」を使う人が多いみたいです。
だけどこの流れに変化をもたらしたのが、終戦直後に行われた様々な国語改革です。
まず昭和22年に活字字体整理に関する協議会が発足されたのですが、この協議会で以下のような提案がなされました。
「新字の「つちよし」ではなく旧字の「吉」を使うべきだ。
そして翌年には戸籍法が改正されたのですが、子供の名づけに使える漢字が当用漢字表1850時に制限されました。
当用漢字とは今でいう常用漢字に当たるのですが、それには新字の「吉」しか収録されていなかったので、この時点で子供の名づけに「つちよし」を使えなくなったのです。
これらの改革を受けて、政府も昭和24年4月28日の官報から、「吉田茂」と改めることにしました。
この時の総理は一体どんな思いだったんだろう?
人名用漢字でも採用されなかった!
いくら常用漢字と認められなくても、人名用漢字で採用するという手もあります。
他の漢字だと、例えば「龍」という漢字があるのですが、これは「竜」の異体字とされています。
しかし「龍」については、「名づけに使う時はOK」という特例があります。
坂本龍馬だってそうですし、芥川龍之介だって「龍」を使っていますね。
このように常用漢字ではないけど、人名用漢字や地名などに使われるようにすればいいのでは?という意見も確かにあります。
「吉野家」や「吉兆」も使っているから、別に良さそうな気もするね。
だけどそう簡単にはいきませんでした。
実は平成16年に常用漢字の異体字も、人名用漢字を新たに追加しようという動きがあったのですが、この時に当時の最新の漢字コード規格JIS X0213が参照されました。
JISとかいう凄く難しい言葉が出てきましたね(汗)
これについては細かく説明すると凄く長くなるので、敢えて簡単に解説しますが、要は
「コンピュータで処理や通信をするために,文字の種類に番号を割り振ったもの。」
という意味です。
つまりJISの漢字コードは1つ1つの漢字に、番号を割り振っていることになります。
平成16年で最新のコンピュータですと、WindowsXPあたりになりますが、この時点でJISコードとして割り振られている漢字の中につちよしは含まれていませんでした。
もっと言えば、当時のコンピュータの中では両者は違う字ではなく、一つの字として扱っていたわけです。
もちろん今でもそうなっています。
現にパソコンで平仮名で「よし」と入力し、変換候補を見ると「つちよし」の右側に「環境依存」とハッキリ書かれていますよね。
平仮名の「ヴ」と同様、「つちよし」についても古いパソコンや機種などでは、そもそも変換されなかったり表示されなかったりします。
ですのでこの記事についても、「」の部分が空白になっていたり、変な記号として表記されている機種もあるので、今更ですがご了承くださいませ。
以上の理由から、現在でも「吉」は人名用漢字として使ってもいいことになりますが、「つちよし」は使ってはいけないことになります。
どうしても「つちよし」を使いたかったら、手書きでしつこく強調するしかないね!
まとめ
以上2つの「吉」の違いと出し方について詳しく見ていきました!参考になりましたら幸いです!
やっぱり何だかんだで漢字って奥が深いです。
今では正式な字という扱いでもないので、「吉野家」や「吉兆」の屋号は貴重な漢字遺産とも言えるでしょう。
ところでちょっと面白い発見をしてさ。縦書きで「大土口」って書いてごらん!
あれ「土口」が「つちよし」って見える!
あぁこれがゲシュタルト崩壊ってやつか!