昨今のヨーロッパ情勢ではイギリスがEUを離脱するというニュースが衝撃的でした。
学校の授業でもEUについては学習しますが、今後のヨーロッパ情勢は本当に目が話せません。
EUはドイツの一人勝ち?イギリス脱退でますます優位!
イギリスと同じようにEUから離脱する国が増えてくるような予感がしますが、ますますドイツの影響力が強まっていきそうです。
ところがヨーロッパの中央に位置しているにも関わらず、一度もEUに加盟したことがない国がありますね。
それがスイスです。
スイスといえば学校の授業でも永世中立国という特殊な国家であると学習すると思います。
永世中立国とは簡単に言えば、どこの国とも同盟関係を結ばず戦争が起きても中立の立場をとる国、という意味です。
これが理由でスイスはEUに加盟していないということになりますが、そもそもなぜスイスは永世中立国になったのでしょうか?
学校の授業では単にスイスは永世中立国だという事実だけを学ぶだけで、その経緯や背景まで詳しく学ぶという人は少ないと思います。
今回はその理由について詳しく探っていきますのでぜひご覧ください!
スイスが永世中立国になった理由は2つ!
歴史を遡るとスイスが永世中立国として承認されたのは今から約200年前、1815年に開かれたウィーン会議で決められました。
ウィーン会議とは、フランス革命とナポレオン戦争終結後のヨーロッパの秩序の再建、さらに領土の分割を目的とした会議でヨーロッパ諸国の代表が集まりました。
この会議の後でスイスが永世中立国になった、という事実だけを学習してその経緯や背景まで詳しく把握している人は少ないと思います。
改めてなぜスイスが永世中立国にならなければいけなかったのか?その理由を簡単に要約すると以下の2点にまとめられます。
- スイスが多民族国家だから
- 周辺国が働きかけたから
それぞれの理由について詳しく見ていきましょう!
1.スイスが多民族国家だから
スイスの地図を見てみると、
- 西はフランス
- 南はイタリア
- 東はオーストリア
- 北はドイツ
と4つの列強国に囲まれていることがわかります。
大昔にこれらの国家から民族が寄り集まってできた多民族国家がスイスとなります、言語に関しても4つの公用語が存在していてかなりややこしいです。
この多民族国家であるという点が昔からスイスの悩みの種でした。
ヨーロッパの歴史を振り返れば、フランスとドイツは長い間戦争していた経緯があって、その度にスイスは国家の分裂の危機に晒されていました。
ドイツの味方をすれば、国内にいるドイツ人にとっては救いですがフランス人やイタリア人は迫害されます。
逆にフランスの味方をすれば、今度はドイツ人が迫害されます。
このような国内事情があるためにスイスは安易に戦争に加担することができないわけです。
2.周辺国が働きかけたから
永世中立国になったのは、周辺国によって決められた側面が強いという意見もあります。
これについては歴史学者のオリヴィエ・ムーリィさんの発言が参考になります。
スイスは、フランスとオーストリアに挟まれた緩衝地域だった。どの国もこのアルプスの小国を支配したがっていた。
スイスが永世中立国になるのは周辺国にとっては都合が良かった。
「スイスは不安定な国だ。では私たちが、スイスは永世中立国だと決めてしまおう。スイスがそう宣言しなくとも、スイスはじきにそう振る舞うだろう」といった感じだろうか。
そもそも「永世中立」を規定する法などない。
その時々の状況に対してスイスがどう行動するかで、中立国であると認められるようなものだ。
結局スイスの運命を決めたのは、対仏大同盟を主導してきたロシアの皇帝アレクサンドル1世だった。
ウィーン会議の議長を務めるオーストリア外相メッテルニヒはむしろベルン州寄りで、13州体制を支持したのに対し、ラ・アルプに信頼をおいていたアレクサンドル1世は彼の助言に従って22州体制のスイス連邦の成立を宣言した。
引用元:https://www.swissinfo.ch/jpn/politics/ウィーン会議から200年_スイスが永世中立国になった日/41336360
このように発言したわけですが、要するに周りの国家にとってスイスが永世中立国になった方が都合がよかったからだという側面もあります。
スイスは内陸国であり山々に囲まれているが故に、大昔から戦争が起きると緩衝地域(対立する国同士の衝突を和らげる役割を担った地域のこと)になっていました。
逆に言えばスイスが占領されると緩衝地域がなくなり、それこそヨーロッパ全土が戦争に巻き込まれる可能性がありました。
そうならないようにするためにスイスを永世中立国として定めて、どこの国も攻撃しないという口実を作りたかったと言えます。
また周りの国からしてもスイスが戦争に参加しなければ、いざと言う時の調停役としても動いてくれるという期待感がありました。
スイス国内の事情と周辺国の同意や考えの一致も重なって永世中立国として決められた、というのが大まかな理由となります。
永世中立は非武装中立ではない!
永世中立国は、将来もし多国間で戦争が起こっても一切加担せず自らは中立の立場を維持していることで、他国からもその中立性が保障・承認されている国のことです。
永世中立は自衛以外ではどこの国の戦争にも加担しないので、一見平和な国家をイメージしがちです。
昔放送されたアニメ『アルプスの少女ハイジ』でもアルプス山脈に囲まれたのどかな自然の風景が見られたので子供の頃は、
「スイスっていい国だな♪行ってみたいなぁ♪」
などと思っていました。
しかしスイスという国をよく調べてみると、平和で穏やかというイメージとは180度も違っていました…
まずなんといっても永世中立国という立場を保持しないといけないわけですが、実は永世中立であるためには、他国から侵略されても大丈夫なように強固な軍事力を備えていなければいけません。
他国に侵略されてしまっては元も子もないですからね。
事実第二次世界大戦中でも同じ永世中立国だったベルギーがナチスドイツに侵略されるという悲劇が起きました。
スイスも当然例外ではありません。
ましてスイスはドイツの同盟国イタリアとの間に挟まれた国でもあったので、ドイツからしたら同盟国との連絡ルートを確保するためにもスイスを占領したいはずでした。
しかしスイスの最大43万人規模の兵士の数、アルプス山脈全域に要塞を築いて徹底抗戦する計画、さらに山々に囲まれているがゆえに山岳戦闘においては他国に比べて慣れているという要素が重なって結局スイス占領作戦は断念されました。
スイスは強固な軍事国家!
中立であるということは、どこの国とも同盟を結ばずどこの陣営にも属さないことを意味するので守ってくれる国はありません。
そのためスイスは地球上で最も自衛の意識が強い国だと言えます。
どれだけ凄い防衛意識なのか、ちょっとまとめてみました!
- 20~30歳の男性に徴兵義務がある
- 各家庭に自動小銃が貸与されいる
- 対戦者兵器や迫撃砲といった大型の武器が地区単位の武器庫に保管されている
- 軍事基地が岩山をくり抜いた地下に建設され高度に要塞化されている
- 軍の施設と公立学校には核シェルターがある
- いざとなれば焦土作戦も辞さない覚悟を背負っている
などといった国柄だそうです、改めて凄い国ですね(*_*;
おまけ:オーストリアも永世中立国?
実はスイス以外のヨーロッパの国でも永世中立国が一つだけあります。
それがお隣のオーストリアです。
ハリウッド俳優のアーノルド・シュワルツェネッガーの出身国でも有名な国ですが、実はスイスと同様永世中立国であるとされていて、独立した1955年と同じ年に宣言しました。
ところがオーストリアの場合はスイスとはちょっと事情が違います。
そもそもオーストリアは第二次世界大戦中はドイツに支配されて枢軸国となったわけですが、戦後は敗戦国になり独立するためには永世中立国になることが条件でした。
つまり自らが望んで永世中立国になったというわけではありません。
またオーストリアは1995年にEUに加盟しました。
EUはヨーロッパの国同士で結ばれる軍事同盟としての意味も含まれますが、これはどこの国とも軍事的同盟を結ばないという永世中立国の条件に当てはまらないことになりますので、オーストリアの永世中立国はほぼ形骸化されているとも言えます。
まとめ
最後になりますが、改めてスイスが永世中立国になった理由をまとめさせて頂きますと以下のようになります。
- 多民族国家であり周辺国の戦争に加担すると国家が分裂する可能性があったから
- スイスを緩衝地域として強めるために周辺国が働きかけたから
またスイスの隣国であるオーストリアも永世中立国ですが、スイスと違ってほぼ形骸化しているということも知っていただければ幸いです。
今回の記事を読んでスイスという国のイメージがだいぶ変わったと思います。
美しい自然の地下深くにおびただしい数の軍事基地が張り巡らされていると想像すると、スイスは怖い国というイメージが強くなるかもしれません。
ただそれでも雄大で美しい自然に囲まれているのは凄い魅力なので、一生に一度でいいからスイスを訪れてみたいですね♪