ニュース番組では様々な政治系の用語が飛び交います。
その中でも「省」と「庁」の違いって、ちょっと分かり辛いですよね。
- 「『総務省』が行った調査によりますと、都心部への人口流入増加の傾向は変わりません。」
- 「CMのメッセージを修正するように『消費者庁』が通告を言い渡しました。」
ここで「総務省」と「消費者庁」という2つの単語が出てきましたが、片や「省」で片や「庁」になっています。
どちらも霞が関にある行政機関ですが、一体どうして2つに分かれているのでしょうか?
今でこそ「環境省」ってあるけど、昔は「環境庁」だったんだよね。
一体何が基準で「省」と「庁」に分かれるんだろう。
あまり深く意識していない人も多いみたいですが、もちろん両者は意味的にも全然違っているんです。
ということで今回は2つの違いを、役割なども合わせて詳しく追及していきますよ!
「省」と「庁」の違いは会社で例えるとイメージがつきやすいよ!
「省」と「庁」の違いとは?
では結論からになりますが、「省」と「庁」の違いを一言で説明すると以下のようになります。
- 「省」とは、内閣直属の中央行政機関のうち最上位に置かれるもの
- 「庁」とは、行政機関のうち府または省の外局として置かれるもの
Wikipediaを参照にするとこうなります。
ただしこれでもわかりづらいと思う人は、超大雑把な感じになりますが、下のようなイメージで捉えてもらってもいいです。
「省」が親会社で、「庁」が子会社
多くの「省」では処理することが不適当な内容だったり、特殊で専門的な内容が多く「省」の内部では対応が難しいと判断される事務を多く抱えています。
そのような事務を専門的に取り扱うため、「省」から独立して設けられたのが「庁」となります。
- 例1:財務省の外局である「国税庁」は、税金のみを取り扱う
- 例2:農水省の外局である「林野庁」は、林業や森林の保全などを取り扱う
わかりやすく知りたい方は以下の記事をご覧ください!
独立行政法人で働く人は公務員なのか。そう思っている人もいるかもしれませんが、厳密に言えば同じ独立行政法人でも、種類によって公務員か否かが分かれます。果たしてどう違うのでしょうか?詳しく見ていきましょう!
因みに英語では、「省」が「Ministry」、「庁」が「Agency」となります。
財務省と観光庁を英語で表現するとそれぞれ
- 環境省=Ministry of the Environment
- 観光庁=Japan Tourism Agency
となります。
各省庁の長の名称は?
もう一つ「省」と「庁」の大きく違っているのは、その“長(トップ)”です。
- 「省」の長は、大臣
- 「庁」の長は、長官
ニュースでよく登場するのは、「○○大臣」と呼ばれる人ですが、その大臣というのは「省」のトップの人ということです。
これは「国家行政組織法」の第5条に「各省の長は内閣法で定められる主任の大臣とする。」と書かれているので、「省」のトップは国務大臣ということになります。
「庁」については「○○長官」と呼ばれていますが、正直ニュースではあまり見かけませんね。
というのも「庁」というのは、結局「省」の外局に過ぎません。
会社で言うところの子会社みたいなものですから、例えば消防庁は総務省の外局なので総務大臣、検察庁は法務省の外局なので法務大臣が事実上のトップになります。
大臣と長官の違い!
また国務大臣というのは、日本国憲法第68条により「過半数は国会議員でないといけない」という規定がありますが、「長官」にはそのような縛りはなく、官僚が任命される場合がほとんどです
「庁」というのは「省」よりも事務の遂行に重点を置いているので、効率性を重視する意味でも、実務経験の豊富な官僚がそのままトップになった方がメリットは大きいのです。
長官がトップではない「庁」もある?
例外として、以下の庁については特別に大臣が設置されています。
- 「復興庁」の長は、復興大臣
- 「金融庁」の長は、内閣府特命担当大臣(金融担当)
- 「消費者庁」の長は、内閣府特命担当大臣(消費者及び食品安全担当)
復興庁は後述しますが、2012年に東日本大震災からの復興を目的として設置された「庁」で、あくまで特別法による特例によって増員された大臣です。
また金融庁や消費者庁などの「内閣府特命担当大臣」は、これらの「庁」が内閣府の外局としてあるため、内閣府に必要に応じて置かれる大臣になります。
因みに復興庁は内閣府の外局ではなく、内閣に直属するので、位置的には「省」とほぼ同じだよ。
防衛省も以前は「防衛庁」だったけど、特別法によって国務大臣が充てられていたよ。
「省」と「庁」ってどんなのがあるの?
現在の日本の中央政府に設置されている「省」と「庁」は、どんな種類があるのでしょうか?
まずは「省」から見ていきましょう!現在日本では以下の通り、11の「省」があります。
- 財務省
- 法務省
- 総務省
- 外務省
- 経済産業省
- 厚生労働省
- 国土交通省
- 農林水産省
- 文部科学省
- 環境省
- 防衛省
次は「庁」です、こちらについては22あります。
- 復興庁:内閣の下に置かれる機関
- 金融庁:内閣府の外局
- 消費者庁:内閣府の外局
- 宮内庁:内閣府に置かれる機関
- 警察庁:国家公安委員会の特別の機関
- 国税庁:財務省の外局
- 海上保安庁:国土交通省の外局
- 観光庁:国土交通省の外局
- 気象庁:国土交通省の外局
- 検察庁:法務省の特別の機関
- 出入国在留管理庁:法務省の外局
- 公安調査庁:法務省の外局
- 原子力規制庁:環境省の外局である原子力規制委員会の事務局
- 資源エネルギー庁:経済産業省の外局
- 中小企業庁:経済産業省の外局
- 特許庁:経済産業省の外局
- 消防庁:総務省の外局
- スポーツ庁:文部科学省の外局
- 文化庁:文部科学省の外局
- 水産庁:農林水産省の外局
- 林野庁:農林水産省の外局
- 防衛装備庁:防衛省の外局
因みによく言われている1府11省2庁とは、2001年に行われた中央省庁の再編においてその枠が定められたものですが、これらは全て大臣が置かれています。
「11省」については、上で紹介した財務省から防衛省がそれに該当し、「1府」は内閣府、「2庁」は内閣府の下に置かれる金融庁と消費者庁です。
内閣府は文字通り内閣総理大臣がその長となっている機関で、わかりやすく言うと「便利屋さん」です。
その下にある金融庁と消費者庁は前述した通り、特命担当大臣が置かれています。
宮内庁も内閣府に置かれていますが、大臣は置かれておらず、宮内庁長官がトップです。
また警察庁の上位機関にあたるのは「国家公安委員会」ですが、こちらも内閣府の外局となっており、その長は国家公安委員長と呼ばれています。
「大臣」とはついていませんが、事実上国務大臣と同じ位置付けになっています。
そして内閣に直属する復興庁と金融庁、消費者庁、宮内庁、警察庁の5つを除いた17の庁については「11省」の外局か特別機関に属します。(「庁」がないのは外務省と厚生労働省だけです。)
数が多すぎたので、図にしてみました。
環境省と防衛省は元々「庁」だった!
現在でこそ1府11省2庁で定着している国の行政機関ですが、11省の内
- 環境省については2001年に環境庁から昇格
- 防衛省については2007年に防衛庁から昇格
となっています。
環境省と防衛省は元々「庁」だったのですが、どうしてそれぞれ「省」に昇格したのでしょうか?
「省」は内閣のすぐ下に置かれる行政機関で、「庁」よりも立場は上でしたね。
環境省については文字通り、環境の保全と公害の防止などを取り扱う行政機関です。
産業革命によって人類の生活水準は先進国を中心に飛躍的に向上しましたが、それに伴って森林破壊による砂漠化、公害などは世界各国で大問題となっていました。
特に1997年に京都議定書が採択され、地球温暖化の原因となる温室効果ガスの削減が各国で定められたことも大きな要因です。
さらにダイオキシンやフロンによるオゾン層破壊など、環境保全は将来の人類の生活を安全にするためにも、優先的に取り組む課題となりました。
環境庁が「環境省」に昇格したのも、こうした国際情勢や世論の動きがあったからと言えます。
「庁」から「省」になったことで、政府がこれまで以上に重点的に環境問題に取り組めると、アピールできる狙いもあったのでしょう。
また防衛省は国家の防衛を司る超大事な機関なのですが、そもそも日本以外の主要国は「防衛省」となっていました。
当時は日本だけが「防衛庁」だったので、国際社会から「日本は国防意識が低いのでは?」と思われるような懸念もありました。
さらに国防については、いつ他国が自国の領域を侵犯するかわかりません。
北朝鮮による弾道ミサイルの発射や、中国の台頭、さらに日米安全保障条約という観点からも、国防や集団安全保障については、最重要課題です。
そして予算の編成や要求についても「庁」のままでは、監督大臣を経る必要があって、正直面倒で手間がかかります。
それまで内閣府の外局として設置されていたので、防衛省になれば主任の「防衛大臣」が単独で提案できるようになりますので、効率が上がります。
これまで以上に迅速な意思決定ができることからも、総合的にみて「庁」よりも「省」が適していると判断したのでしょう。
あるいは日本は憲法9条で軍隊は保持しないと書かれていることも、関係しているみたいだよ。
おまけ:「省」の歴史を掘り下げ!
歴史を辿れば、行政機関の「省」については、何と奈良時代の「大宝律令」からありました。
この時期に定められた律令制は、中国の随や唐の制度を倣ったもので、太政官と呼ばれる役職の下に「八省」が置かれました。
八省の内訳は以下の通りです。
- 中務省:今でいう「内閣」
- 式部省:今でいう「文部科学省」
- 治部省:今でいう「外務省」と「総務省」
- 民部省:今でいう「総務省」
- 兵部省:今でいう「防衛省」
- 刑部省:今でいう「法務省」
- 大蔵省:今でいう「財務省」
- 宮内省:今でいう「宮内庁」
こんな大昔に既に今の中央政府の行政機関の元となる機関があったことに驚きです。
何より驚いたのは「大蔵省」です。
この大蔵省ですが、年配の方ならご存知だと思いますが、「財務省」の前身にあたる省ですね。
2001年の中央省庁再編の際に名前を変えたのですが、実は奈良時代からずっとこの名前だったんです!
「大蔵」というのが名前的に財務を取り扱うとは分かり辛いので、変えるのは致し方なかったとは思いますが700年も続いた名前を変えるってのは、ある意味凄い勇気があったでしょうね(;^^
財務省ってある意味とんでもない歴史があった省なんだね!
まとめ
今回は「省」と「庁」の違いについて解説してきました。それではまとめといきましょう!
- 「省」は内閣の下にある最上位の行政機関、「庁」は内閣府と「省」の外局として置かれる機関
- 「省」と「庁」の関係はわかりやすく例えると、親会社と子会社
- 「省」の長は「大臣」で、「庁」の長は「長官」
- 英語だと「省」が「Ministry」、「庁」が「Agency」
- 22の「庁」の内、復興庁だけは内閣の下に置かれている
- 「省」は奈良時代の大宝律令からあった
数が多いからややこしいと思われがちですが、「省」と「庁」の違いをしっかり理解すれば、政治系のニュースも頭に入りやすいですよ。
霞が関に勤めるなら、やっぱり「庁」より「省」の方がいいね!