鉄(てつ)”といえば人類にとってかけがえのない資源です。特に産業革命以降は安価で入手しやすいこと、産業の中核を担う物質となって、「産業の米」・「鉄は国家なり」という言葉が生まれたほどです。

その鉄は日常生活でもごく当たり前のように使われています。

自動車や電化製品、自転車、ビルなどの建造物、さらに鞄やアクセサリーなどの日用品にまで、鉄は至る所で見かけますね。

しかし鉄に似たものに“鋼(はがね)”という言葉もあります。

さらにこの2つの漢字は組み合わせると「鋼鉄」と書いて「こうてつ」と呼ぶのですが、意味はどちらも鉄で同じなんですよ。


僕はよくRPGで遊んだことがあるのですが、キャラクターに装備させる武器や防具で“鋼の剣”とか“鉄の鎧”とかが出てきますよね。

なんとなく鋼の方が名前的にかっこいいし強そう、というイメージしかありませんでした。でも鉄と鋼って一体どこが違うのでしょう?

今回は両者の厳密な定義の違いについて、詳しく掘り下げていきましょう!
 

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鉄と鋼の定義としての違い



鉄と鋼



この両者はどこがどう違うのでしょうか?

一言で表せば、とある元素の含有量が異なっていただけです。定義の違いを簡単に説明しますとこうなります。

  • は、鉄(Fe)に炭素(C)が0.02%未満しか含まれていない合金、英語では「iron」と表記する
  • は、鉄(Fe)に炭素(C)が0.02~2.14%含まれている合金、英語では「steel」と表記する



実は両方とも物質としては“鉄”を意味することでは同じですが、違いは炭素の含有量だったのです。

※鋼は“鋼鉄(こうてつ)”とも書きますが意味は同じです。

なぜこのような違いが生まれてくるのでしょうか?そもそもなぜ炭素が出てくるのかも疑問ですね。


正確に化学的に解釈すると、両方とも周期表で原子番号26の元素Feである点には変わりません。

周期表でも“鉄”としか表記されていないですよね、“鋼”という言葉はどこにも出てきません。


すなわち

“鉄”と“鋼”は基本的には同じ物質で“Fe”という認識でOK。

という説明だけしか受けなくて、もしかしてそれ以上の細かい定義までは知らない、というか教わっていない人も少なくないかもしれません。

あくまで“基本的には”同じ物質だということですが、厳密に解釈しますと同じ鉄でも性質が全く異なって来るのです。

鉄と鋼は炭素の含有量が違う!

鉄と鋼で根本的に違って来るのは、炭素の含有量です。

簡単に言うと炭素の含有量が少ない方が鉄で多い方が鋼となるのですが、ここで「なぜ炭素?」と疑問に思う人も出てくるでしょう。

実はそこには鉄を生成する過程に大きく関係していたのです。

鉄の生成過程について

そもそも鉄の原料となるのは「鉄鉱石」と呼ばれる資源です。

この鉄鉱石を酸化還元反応で生成したのが鉄となるのですが、この生成ではコークスと呼ばれる材料を使っています。

このコークスは石炭の残りかすのような物で、炭素が多く含まれています。

すると酸化還元反応で鉄に炭素が含まれる“銑鉄(せんてつ)”と言う物質が生まれるのです。

銑鉄とは、炭素が4~5%も含まれていますが、あまりにも炭素が多く含まれていて、鉄本来の強度がなくなり脆いのです。


そこで銑鉄に含まれる炭素を取り除いて、純度の高い鉄を生み出さないといけません。

しかし現実的には生成されるのは鋼までで、それよりも炭素含有量が少ない鉄(=“純鉄”とも言う)が生成されることはほぼありません。


その理由は極めて純度の高い鉄というのは、イオン化傾向が非常に高く錆びやすくなるからです。

これに関しても化学の知識が生きてきます。

鉄という物質は酸と反応しやすいですよね。空気中で錆びてしまうのは有名ですが、あれは空気中の酸素と反応して“酸化鉄”となるからです。

酸化鉄となってしまったら、鉄本来の強度が失われてしまいます。これでは元の木阿弥です。


だからと言って炭素が多いままだと、今度は材料としての粘り強さ(靭性)が減りやはり脆くなります。

しかし炭素を全て取り除かず、敢えて微量に残した方が、本来の鉄よりも強度が固くなり使い勝手がよくなることがわかりました。

そうして生まれたのが“鋼”です。鋼というのは鉄に対して炭素が絶妙なバランスで組み合わさった、まさに最高の材料なのです!

鋼は現在スチール缶や蛇口、流し台、自動車や自転車の部品、鉄道車両、工具、発電機など数多くの場面で使われています。

中でも他の元素(クロムやチタン)などとの合金は、普通の鋼に比べても強度や耐食性が格段にアップしています。

つまり我々が日常生活で見かける鉄というのは、その全てが鋼の方になるのです!

炭素含有量が2.14%以上は鋳鉄!

炭素含有量が0.02%未満が鉄(純鉄)で、0.02以上2.14%未満が鋼でしたが、では2.14%以上の鉄は何と言うのでしょうか?

これは正式には“鋳鉄”と呼ばれており、学術・産業上の定義は「炭素含有量が2.14以上6.67%未満で、ケイ素を約1~3%含んだ合金」ということになります。


鋳鉄というのはあまり聞きなれない言葉ですね。

性質としては炭素含有量が多いので、鉄や鋼に比べると強度や耐熱性には大変優れていますが、全体的には伸びにくいです。

鋳鉄製品は日常生活であまり見かけることはありません。マンホールの蓋や防火炉、水道管などに使われていることが多いです。


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英語での違い

英語での表記も鉄と英語では異なっており、鉄が「iron」、鋼が「steel」となります。

鉄は熱いうちに打て。」という諺がありますが、実は英語でも同じ諺が存在していて

Strike while the iron is hot.

となります。

ご覧のように、この場合の鉄はまさしくironの方です。また単に鉄その物や、化学用語として鉄を表現したい時にもironで統一します。

※因みに元素記号で鉄は『Fe』と表記しますが、これはラテン語の「ferrum」が由来となっています。



対して鋼の「steel」は「スチール」と発音しますが、これは飲料水が入ったスチール缶でお馴染みですね。

このことからもスチール缶は「鋼で出来ている」という事実がわかります。スチール缶を「鉄の缶」と訳すのは、厳密に言うと間違っていますので気を付けましょう。

JISの規格による違いとは?

鉄と鋼の違いは炭素含有量が異なることでしたが、実はこの違いはあくまで学術・産業上の定義に過ぎません。

細かい話になりますが、実はJIS(日本工業規格)ではもっと違う分け方がされていました。


鋼は普通鋼・鋳鋼・鍛鋼・特殊鋼の4種類に、鉄は鋳鉄の1種類に分かれていて、さらにそれぞれがまた以下のように細分化されています。

    • 普通鋼:圧延鋼
    • 鋳鋼:炭素鋼鋳鋼品・合金鋼鋳鋼品・特殊用途高鋳鋼品
    • 鍛鋼:炭素鋼鍛鋼品・合金鋼鍛鋼品
    • 特殊鋼:工具鋼・合金鋼・特殊用途鋼
    • 鋳鉄:ねずみ鋳鉄・球状黒鉛鋳鉄・可鍛鋳鉄

これを見ると鉄は先ほど説明した鋳鉄とほぼ同じことになります。

しかし何と言っても鋼の種類が豊富なことがわかりますね。これだけ見ても多いですが、実はさらに他の元素を添加した様々な合金鋼が存在します。

具体的には

  • ケイ素を添加した電磁鋼
  • ニッケル、マンガンを添加した非磁性鋼
  • クロム、ニッケルを添加したステンレス鋼

などがあります。

鋼は特に他の元素と組み合わせやすい金属で、合金によって、強度や磁性、耐食性などが格段にアップするのが大きな特徴と言えます。
 

まとめ

今回は鉄と鋼の両者の違いを詳しく掘り下げてきました。

まとめると、鉄と鋼は原子番号26の鉄Feである点では同じですが、炭素含有量が0.02%未満が鉄で、0.02以上2.14%未満が鋼となるのです。

さらに2.14以上6.67%未満だと鋳鉄に分けられます。

一般の生活で見かける鉄製品はほとんど鋼の方で、いろいろな元素と組み合わさった合金である場合が多いです。


僕自身今回の記事を書くまでは鉄と鋼の違いがはっきりとわかっていませんでしたが、鋼の方がより強度が大きくて身近な存在だったと知って驚きましたね。

純粋な鉄だと非常に脆くて、自然界では安定しません。

となると冒頭で紹介した「鉄は国家なり」という言葉も「は国家なり」と改めた方がいいかもしれません(;^^)
 

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