言葉の意味の違いを調べていると、日本語って本当に同音異義語が多いことに驚きます。
だけど同音異義語以外にも似たような言葉ってたくさんあるんです。
今回紹介する「渓谷(けいこく)」と「峡谷(きょうこく)」の2つも、凄く似たような響きです。
むむ。同じ「谷」がついてるけど、一体何が違うの?
火星にあったのは「マリネリス渓谷」だっけ?それとも「マリネリス峡谷?」
日本にもいろいろな名所に「峡谷」とか「渓谷」とかつきますね。特に有名なのが『黒部峡谷』だと思いますが、「渓谷」とつく地名も多いんです。
観光地となっている場所も多いですから、外国人とかに聞かれる可能性もありますね。
ということで今回は紛らわしい2つの言葉の違いを詳しく探っていきます!
アメリカの「グランドキャニオン」も「大峡谷」だけど、その成り立ちも合わせて紹介するよ。
「峡谷」と「渓谷」の違いとは?
さて同じ谷という点では共通している「渓谷」と「峡谷」ですが、両者の違いを一言で説明するとこうなります。
- 「渓谷」とは、山地を流れる川によって築かれた細長いくぼ地、谷とほぼ一緒
- 「峡谷」とは、「渓谷」よりさらに深い谷で両側に険しい崖がある、V字谷のこと
だいたいこのような感じになりますが、どうでしょう。
両方谷である点は同じだったんですが、ポイントとなるのは深さにあったのです。
ただそうするとそもそも「谷」という言葉の定義が気になりますよね。
ここからは地理や地学の知識も踏まえて、谷の成り立ちから詳しく見ていきましょう!
そもそも「谷」とは?
凄く今更な知識になりますが、「谷」というのは本来は地表にある細長い低所の総称です。
つまり平坦な土地であっても、そこに細長い溝のような大きな地形があったら、そこは「谷」と呼びます。
「渓谷」と「峡谷」はどうやってできた?
では「渓谷」とは何なのかといいますと、これは「谷」の中でも河川の浸食によって形成された谷を意味します。
谷を流れる川のことを「渓流」と呼ぶので、「渓流によって作られた谷」、だから「渓谷」となります!
因みに漢字の「渓」は「谷」とほぼ一緒の意味だよ。
要は山や丘に挟まれており、川が流れている細長いくぼ地が「渓谷」です。
ただその「渓谷」が長い年月を経ても、同じ姿のまま維持することはなく変わっていきます。
谷を流れる河川の運動が凄く活発で、浸食の作用が激しくなると、通常の「渓谷」よりもさらに深さが増して、険しい崖が形成されます。
このようにしてできた谷を「峡谷」と呼び、景観の名所となっている地形も多いです。
学校の地理の授業だと、その谷の形が“V字”のように切り立っているから「V字谷」という言葉でも習うよね。
具体的にどんな地名があるのか。日本各地にある主な「渓谷」と「峡谷」を紹介していきます。
※「峡谷」は、単に「峡」一文字だけで表記されていることもあります。
- 主な『渓谷』
- 浅布渓谷:宮城県栗原市花山の迫川
- 華厳渓谷:栃木県日光市の大谷川
- 真木渓谷:秋田県大仙市の斉内川
- 奥裾花渓谷:長野県長野市鬼無里の裾花川上流
- 立川渓谷:徳島県勝浦郡勝浦町棚野の立川
- 滑床渓谷:愛媛県宇和島市と北宇和郡松野町、目黒川最上流
- 菊池渓谷:熊本県阿蘇市と菊池市、菊池川上流
- 主な『峡谷』
- 黒部峡谷:富山県黒部市飛騨山脈を分断する大峡谷
- 天竜狭:長野県飯田市の天竜川の峡谷
- 馬仙峡:岩手県二戸市の馬淵川の峡谷
- 二口峡谷:宮城県仙台市の名取川の峡谷
- 瀞八丁:奈良・和歌山・三重の3県の境界を成す
因みに今の日本では「渓谷」にあたる地形が297か所、「峡谷」にあたる箇所が196か所あって、「渓谷」の方が多いです。
また「渓谷」とつく地名は多いですが、「峡谷」の2文字で表記される地名は「黒部峡谷」くらいで、それ以外はほぼ「○○峡」という表記が多いですね。
「渓谷」について詳しく!
「渓谷」と名前のつく地名は日本には多いですが、その多くが谷間か山に挟まれた川のある場所に作られます。
中には秋に紅葉が広がる観光地になる場所も多いです。
ご覧のように確かに地形的には穏やかですね、そして紅葉も美しいです!
山間にはありますが基本的に標高は低いので、観光地として歩きやすく整備されている所が多いです。
また登山初心者にとっても行きやすくなっており、登山途中で絶景を眺めるには絶好の場所と言えるでしょう。
「峡谷」について詳しく!
「峡谷」は「渓谷」に比べて深い谷で、切り立った崖に挟まれている地形が多いです。
また足場すらない深い川が流れており、ダムになっている場所も多いですね。
そして川の隣に人が立って歩ける平野がない地形が多いのも一つの特徴ですね。
ご覧のように確かに険しい崖になっています、ほぼ垂直で自力で這い上がれるのは困難を極めます。
間違っても登山初心者が挑んではいけない場所とも言えるでしょう。
登山的には素人が挑んでも大丈夫かどうか、ここが「渓谷」との最大の違いですね。
「峡谷」の王様グランドキャニオン!
また『日本大百科全書』によれば、「峡谷」が形成される条件としては
- 勾配が急であること
- 岩石が硬いこと
- 乾燥気候であること
などといった条件も必要で、まさにアメリカのアリゾナ州にある『グランドキャニオン』がこれに該当します。
グランドキャニオンは世界で最も有名な「峡谷」ですが、英語で「Grand Canyon」と表記し、意味は「大峡谷」です。
「canyon」は「峡谷」を意味する英語だよ。
今から約7000万年も前に形成された巨大な峡谷で、平均の深さが1.2km、長さ446km、幅6~9kmとまさに「峡谷の王様」的な存在です。
太陽系で最大の「峡谷」が火星に?
ところが宇宙に目を渡すと、なんとこのグランドキャニオンですら飲み込む巨大な「峡谷」があったんです!
それが冒頭でも紹介した火星の『マリネリス峡谷』です。下の画像をご覧ください。
火星の表面の写真ですが、火星の中央を大きな亀裂が横切っていますよね。
この大きな亀裂こそマリネリス峡谷です。全長は約4000km、幅も最大で200km、そして驚愕の深さは7kmでグランドキャニオンの数倍以上です。
グランドキャニオンが可愛く見える規模です(;^^
その大きさで惑星の表面の4分の1近くを占めています。
火星といったら、この大地形は切っても切り離せない存在です。もし火星に旅行できるようになったら、最大の景勝地になるでしょうね。
ところがマリネリス峡谷の場合、その名称がやや曖昧になっています。
実は英語では「Mariner Valleys」と呼びますが、「Valleys」は「谷(あるいは渓谷)」を意味する英語で、「マリネリス渓谷」とぶ場合もあります。
その理由は、マリネリス峡谷はグランドキャニオンと違って、河川の浸食ではなく大地溝帯のように地殻変動によって形成されたからだそうで、区別するために敢えて普通の「valley」を使っている、と見て取れますね。
だけど火星には水が流れてないから、「渓谷」っていうとちょっと違和感があるね。
英語での表現の違いは?
アメリカのグランドキャニオンを紹介しましたが、英語では「Grand Canyon」です。
この「canyon」は日本語では「峡谷」を意味します。
一方で「渓谷」はWeblio英和辞典によると、「valley」と表記します。
「valley」というのは、普通の「谷」と全く同じですから、英語では「谷=渓谷」になるんですね!
ただし「峡谷」の場合は、英語だといくつか表現があるようです。主に下の4単語がそれに該当します。
- canyon
- ravine
- glen
- gorge
「canyon」はグランドキャニオンでお馴染みなので、一番しっくりきますが、下の3単語はちょっと馴染めないというか聞きなれないですよね。
「ravine」については「峡谷」という意味もありますが、単に両側に山のせまった狭い谷間である「山峡」という意味を強調する時にも用いられます。
また「glen」は主にアイルランドやスコットランドで使われる単語です。
スコットランドのハイランド地方には、『Glen Affric(アフリック峡谷)』という地名があります。
最後は「gorge」ですが、これは主に登山関係で使われる用語で、「ゴルジュ」だなんて呼ばれることもあります。
意味は「峡谷」と全く同じですが、この言葉はフランス語由来となっています。
登山でよく使う「ゴルジュハンマー」の「ゴルジュ」ってこれだったのか!
島国である日本の全体地図を見ると「諸島」、「群島」、そして「列島」と3つの言葉があるのを見かけます。同じ島の集まりという意味では共通していますが、改めて3つの意味の違いを英語表現も合わせて詳しく紹介していきます!
まとめ
今回は同じ谷同士である「渓谷」と「峡谷」の2つの違いを掘り下げてきました。それではまとめといきましょう!
- 「渓谷」は山を流れる河川によってできた谷、「峡谷」は「渓谷」より深く険しくなったV字の谷
- 日本では「渓谷」が「峡谷」より多い
- 「峡谷」は勾配が急で岩石が硬く乾燥気候だと形成されやすい
- 火星の「マリネリス峡谷」は太陽系最大の大きさ、「マリネリス渓谷」ともいう
- 「渓谷」の英語は「valley」だが、「峡谷」の英語は「canyon」、「ravine」、「glen」、「gorge」の4つがある
読みも似ていて紛らわしかった2語ですが、今回の記事で改めて違いを明確に理解してもらえれば幸いです。
それにしても火星の峡谷って凄いなぁ、マイクラで登場したらどんなダンジョンになるんだろ?
そりゃもう、火星人がいっぱい出てくるでしょ。